新しい生活への期待に胸を膨らませて入居したマンションの一室で、私は絶望の淵に立たされました。荷解きを始めようと、キッチンの備え付けの物置を開けた瞬間、隅の方に黒くて平たい物体が転がっているのが目に飛び込んできたのです。それは紛れもなく、大きなゴキブリの死骸でした。引っ越し早々の洗礼に、私はしばらくその場から動くことができませんでした。生きた個体ではないという安堵感もありましたが、それ以上に、前の住人が去ってから今日までの間に、この部屋を我が物顔で徘徊していた存在がいたという事実に、全身の毛穴が収縮するような不快感を覚えました。私は意を決して、掃除機で吸い取るのではなく、使い捨ての割り箸と大量のティッシュを用意しました。掃除機で吸ってしまうと、フィルターの中で死骸が粉砕され、排気とともに不衛生な成分が部屋中に撒き散らされるという話を聞いたことがあったからです。震える手で死骸を掴み、ポリ袋に二重に入れて封をしました。しかし、本当の戦いはそこからでした。死骸を一つ見つけたということは、まだどこかに潜んでいるのではないか、あるいは別の死骸があるのではないかという疑念が頭を離れなくなったのです。私は懐中電灯を手に取り、部屋中の隙間を点検し始めました。冷蔵庫を設置する予定の場所、シンク下の配管の隙間、クローゼットの奥。すると、案の定、洗面台の裏側のわずかな隙間からも、小さな幼虫らしき死骸がいくつか見つかりました。新しい門出を祝うはずの初日は、結局、徹底的な殺菌と清掃の日に変わりました。死骸があった場所には強力な除菌剤を噴霧し、何度も何度も拭き上げました。さらに、近所のドラッグストアに走り、考えうる限りの防虫グッズを買い込みました。設置型のベイト剤を部屋の四隅に配置し、玄関やベランダのサッシには侵入防止のスプレーを念入りにかけました。あの死骸との遭遇がなければ、私はここまで徹底した対策を講じることはなかったでしょう。今思えば、あの死骸は私に対して、この部屋の防御力の低さを教えてくれたのかもしれません。それから数週間、生きたゴキブリを見ることは一度もありません。死骸を適切に処理し、その背景にあるリスクを排除するために奔走した日々は、今のこの平穏な生活を守るための必要な儀式だったのだと感じています。死骸を見つけることは不快極まりない体験ですが、それを放置せず、徹底的に向き合うことで、本当の意味で安心できる空間を作り上げることができるのだと学びました。