ある夏の日、洗面所の床にいた一匹の小さな黒い虫。体長はわずか三ミリほどで、動きもそれほど速くはありませんでした。私はそれを適当にティッシュで包んで捨て、一匹だけだし大したことはないだろうと、深く考えずに放置してしまいました。それが後に、わが家を襲う巨大な害虫トラブルの序章になるとは夢にも思わずに。二週間後、夜中にキッチンへ行こうとして電気をつけた瞬間、私の視界に入ってきたのは、シンクの周りをカサカサと這い回る十数匹の同じ虫たちの姿でした。あの日見た「一匹」と同じ顔をした、しかし少し大きくなった赤ちゃんたちの群れです。恐怖で声も出ず、私はようやく、あの時の一匹が「まだ対策が間に合う」という最後通牒であったことに気づきました。私の家は古い賃貸アパートで、管理が行き届いているとは言えませんでしたが、それまでこれほどまでの数を見たことはありませんでした。調べてみると、どうやら床下の配管から侵入した成虫が、私の洗面所の棚の裏側で卵を産み落としたようでした。一匹だけ見つけたあの日、私は棚を動かして掃除をすることもしませんでした。結果として、私は彼らに安全な成長期間を与えてしまったのです。そこから私の壮絶な駆除の記録が始まりました。まず市販の燻煙剤を二回にわたって焚き、家中の隙間をすべてアルミテープで塞ぎました。業者が使うような強力な毒餌をあらゆる場所に配置し、毎日這いつくばって床を磨き上げました。しかし、一度巣食ってしまった彼らを根絶するのは容易ではありませんでした。家具の裏から出てくる死骸の数に、私は精神的に追い詰められ、一時は引っ越しまで検討しました。最終的に、専門業者に三ヶ月間の定期メンテナンスを依頼し、ようやく平穏を取り戻すことができました。業者の人が言った言葉が今も耳に残っています。「一匹だけ出た時にすぐ呼んでくれれば、これほどの費用も時間もかからなかったんですけどね」と。一匹の赤ちゃんは、決して一匹ではありません。それは背後に潜む大群の代表者であり、家主への宣戦布告なのです。あの時の私の怠慢が、家族に不快な思いをさせ、多額の出費を招いたという事実に、私は今も深い後悔を感じています。これから小さな虫を見かけるすべての人に伝えたい。その一匹を、決して見逃してはいけないということを。