パニックのあまり、あるいは他に手段がなく、手元のスリッパや雑誌で、ゴキブリを叩き潰してしまった。その瞬間、目の前に広がる悲惨な光景と、独特の臭いに、多くの人は後悔と自己嫌悪に苛まれることでしょう。しかし、落ち込んでいる暇はありません。ゴキブリを潰してしまった後の処理は、他のどのケースよりも、迅速かつ徹底した清掃と消毒が求められる、最も難易度の高いミッションなのです。なぜなら、潰されたゴキブリの体液や内臓には、大量の病原菌が含まれている可能性が高く、また、メスが抱えていた「卵鞘(らんしょう)」が飛び散っている危険性もあるからです。この最悪の事態を乗り切るための、正しい掃除術は以下の通りです。まず、必ず使い捨てのゴム手袋とマスクを着用します。次に、キッチンペーパーや古い布を使い、固形物である死骸の破片を、できるだけ広げないように、中心に集めるようにして取り除きます。取り除いたものは、すぐにビニール袋に入れて密封します。ここからが本番です。床や壁に広がった体液のシミを、徹底的に消毒・除去しなければなりません。最も効果的なのが、「塩素系漂白剤(ハイターなど)」を薄めた液体です。これを染み込ませた布で、シミの部分を覆い、数分間パックするようにして消毒します。その後、水拭きと乾拭きを繰り返して、漂白剤の成分を完全に取り除きます。漂白剤が使えない場所の場合は、「消毒用エタノール」をたっぷりとスプレーし、清潔な布で何度も拭き取ってください。そして、最後に確認すべきが、卵鞘の有無です。小豆のような形をした、茶色いカプセルが周辺に落ちていないか、注意深く探してください。もし見つけた場合は、絶対に潰さず、ティッシュなどでそっと拾い、ビニール袋に入れて、物理的に潰してから捨てるのが確実です。ゴキブリを潰すという行為は、衛生的なリスクを最大限に高める最終手段です。もし、その手段を取ってしまったのなら、その代償として、完璧なまでの清掃と消毒を行う覚悟が必要となるのです。