ベランダの手すりや物干し竿に、使い古しのCDがキラキラと揺れている。これは、昔から多くの家庭で実践されてきた、最もポピュラーな鳩よけ対策の一つです。一見すると気休めのように思えるこの方法ですが、実は鳩の「視覚」という弱点を巧みに突いた、科学的な根拠に基づいた対策なのです。では、なぜ鳩はキラキラと光るものをあれほどまでに嫌うのでしょうか。その理由は、彼らの生存本能と深く結びついています。鳩にとって最大の天敵の一つが、カラスです。カラスの濡れた羽は、太陽光を反射してキラキラと光ることがあります。そのため、CDやホログラムテープが風に揺れて放つ不規則な光の乱反射は、鳩にカラスの存在を連想させ、本能的な恐怖と警戒心を引き起こすのです。「ここに天敵がいるかもしれない」と感じた鳩は、その場所を危険なエリアと認識し、近づくのをためらうようになります。また、光だけでなく「色」も鳩の行動に影響を与えると言われています。鳩は、黄色や赤といった、いわゆる警戒色を嫌う傾向があるという説があります。これも、自然界において毒を持つ生物などが派手な色をしていることが多く、それを危険なサインとして認識する本能が働くためと考えられています。さらに、猛禽類の目を模した「目玉模様」の風船なども、視覚的な脅威として効果を発揮することがあります。大きな目は、捕食者の存在を直接的にイメージさせ、鳩に強いプレッシャーを与えます。ただし、これらの視覚的な対策には、明確な「限界」が存在することも理解しておかなければなりません。それは、鳩が非常に学習能力の高い鳥であるということです。最初は警戒していたCDの光や目玉模様も、毎日同じ場所で同じように揺れているだけで、自分に実害がないと学習してしまうと、次第にその効果は薄れていきます。いわゆる「慣れ」が生じてしまうのです。したがって、光や色を使った対策は、鳩が飛来し始めた初期段階や、執着心がまだそれほど強くない場合に最も効果を発揮する、いわば先制攻撃や牽制球のようなものと位置づけるのが賢明です。
光と色が鳩を遠ざける意外な理由