それは、真夏の夜中の二時のことでした。喉の渇きを覚えてキッチンへ向かい、冷蔵庫を開けようとした、その瞬間。視界の端で、黒い何かが、シンクの下の暗闇へと高速で消えていくのが見えました。間違いない、ヤツだ。ゴキブリだ。その瞬間、私の喉の渇きはどこかへ吹き飛び、代わりに全身から冷たい汗が噴き出しました。心臓が早鐘を打ち、キッチンから一歩も動けなくなってしまいました。どうする?このまま見なかったことにして、寝室へ逃げ帰るか?いや、それでは今夜、私は一睡もできないだろう。私は、震える手で、シンクの下に常備してあった殺虫スプレーを握りしめました。これが私の唯一の武器だ。意を決して、ゆっくりとシンク下の扉を開けると、そこには、配管の影で触角を揺らす、巨大な黒い影がありました。私は、小さな悲鳴を上げそうになるのを必死でこらえ、スプレーのノズルをヤツに向けました。そして、祈るような気持ちで、引き金を引いたのです。白い霧が噴射され、直撃を受けたゴキブリは、狂ったようにその場で回転し始めました。私は、恐怖のあまり目を閉じてしまいそうになるのを堪え、ただひたすらスプレーを噴射し続けました。数秒だったのか、数分だったのか。永遠にも感じられる時間の後、ヤツの動きは、ついに止まりました。ひっくり返り、足を微かに痙攣させているその姿を見て、私はようやく安堵のため息をつきました。しかし、戦いはまだ終わりではありません。ここからが、私にとって最大の試練、死骸の処理です。ビニール手袋を二重にはめ、キッチンペーパーを10枚ほど重ねて、私は人生で初めて、ゴキブリという物体に触れました。その冷たくて硬い感触は、今でも忘れられません。トイレに流し、レバーを引いた時の解放感。その後、私は半ば狂ったように、キッチン中をアルコールスプレーで拭き続けました。すべてが終わった頃には、窓の外は白み始めていました。眠気は全くありませんでしたが、心の中には、一つの戦いを終えた者だけが味わえる、奇妙な達成感が満ちていました。