平和の象徴というイメージとは裏腹に、一度ベランダや軒先に居座られると、その執念深さと糞害によって私たちの生活を脅かす存在となる鳩。彼らを効果的に遠ざけるためには、鳩が本能的に何を嫌い、何を危険だと認識するのか、その習性を深く理解することが不可欠です。鳩が嫌がるものは、大きく分けて三つの感覚、「視覚」「嗅覚」「触覚」への刺激に分類することができます。まず「視覚」へのアプローチです。鳩は非常に警戒心が強く、特にキラキラと不規則に反射する光や、急な動きを極端に嫌います。これは、彼らの天敵であるカラスなどが光を反射する濡れた羽を持っていることや、猛禽類が襲いかかる際の素早い動きを連想させ、本能的な恐怖心を煽るためです。CDやホログラムテープを吊るすという古典的な対策は、この視覚的な弱点を突いたものです。また、猛禽類の姿を模した模型なども、同様の理由で一定の効果を発揮します。次に「嗅覚」への刺激です。鳩の嗅覚は、人間ほど鋭敏ではありませんが、特定の強い匂いを嫌うことが知られています。例えば、ハーブの中でも特に香りの強いミントや、木炭を作る際に出る煙の匂いが凝縮された木酢液、あるいはタバコのヤニの匂いなどが挙げられます。これらの香りは、鳩にとって異質で不快なものであり、「ここは安全な場所ではない」と認識させるためのサインとなります。市販されている鳩よけの忌避剤も、この嗅覚の弱点を利用して開発されたものがほとんどです。そして最後に、「触覚」へのアプローチです。鳩は、自分の足場が不安定であったり、何かが体に触れたりすることを非常に嫌います。手すりの上に剣山(スパイク)を設置したり、見えにくいテグス(釣り糸)を張ったりするのは、この触覚的な不快感を与え、物理的にその場所にとまれなくするための対策です。これらの鳩が嫌がる要素を単体で試すのではなく、複合的に、そして根気強く継続することで、鳩に「この場所は危険で、落ち着いて過ごすことができない」と学習させ、最終的に諦めさせることが可能になるのです。